サンクスネイチャーバス

天ぷら油で走るバスの先駆者!サンクスネイチャーバス(前編)

こんにちは!超ベテラン編集部員Iです。

今回は私が暮らす街のすぐそばを走るコミュニティバスのことを
ご紹介したいと思います。

バスの名前は「サンクスネイチャーバス」です。

100万人以上を運んだエコロジーバス

東急東横線・大井町線「自由が丘」を駆け抜けてもうすぐ19年。
2014年4月には
乗車人数100万人を突破!
天ぷら油などの廃油を使ったリサイクル燃料を使用し、
地元の企業・団体・個人のサポーターに支えられ、運行を続けています。

今回はサンクスネイチャーバスが愛され続けている秘密と
廃油燃料について取材をしてきました。

「うちの地域でもコミュニティバスを走らせたい!」
「廃油を使ったリサイクル燃料導入を検討したい!」

そんな方の参考になったら幸いです。

環境にやさしく、生活者にもやさしいバスの誕生

今回、お話を聞かせていただいたのは
「NPO法人サンクスネイチャーバスを走らす会」の発起人でもある島田理事。

「サンクスネイチャーバスが生まれる背景には、あるきっかけがあった」といいます。

1992年6月、ブラジルのリオデジャネイロで開催された
「国連環境開発会議(地球サミット)」。
環境と開発を包括的に扱った初めてのもので、
このとき21世紀に向けての行動計画「アジェンダ21」等が採択されました。

「アジェンダ21」は、大気、森林、砂漠化、海洋、資金、技術移転、気候など
経済、社会、環境に関する諸問題への取り組みを示したもの。

環境に関する負荷を軽減する取り組みの一つとして挙げられていたのが
「循環型社会」で、廃棄物の発生の抑制や
資源の循環利用(再使用、再生利用、熱回収)の促進などにより、
天然資源の消費を抑制する試みです。

循環型社会の実現
イラストはイメージです

地元、自由が丘でスーパーを経営していた島田理事は、
「食用油をたくさん売ってきた(家庭から出す廃油を増やしてきた)」
という負い目があったといいます。

「何か地球環境を守るために、自分たちにもできることはないか」

そんな時「染谷商店」の染谷さんに出会います。
「染谷商店」は1993年、世界で初めて廃食油(植物油)をディーゼル燃料化した
「VDF(R)(ベジタブル・ディーゼル・フューエル)」の開発に成功。
環境負荷を低減し、人にもやさしいオイルを提供していました。

この画期的な燃料については、のちほど(後編)でご紹介していきますよ!

たまたま同じ地元で「自然を取り入れた暮らし」を提案するお店
「サンクスネイチャー」を経営する斉藤理事が
「駅と地域をつなぐ送迎バスを走らせたい!」という夢をもっており、
みんなで協力すれば実現できるのではないか?と考えていました。

この地球にやさしい燃料と、地元の利便性を高める送迎バスの運行という夢が結びつき、
送迎バス運行を実現させるための組織として
「サンクスネイチャーバスを走らす会」が19994年に産声を上げます。

「自由ガ丘インターナショナルテニスカレッジ」を経営する栗山理事、
後楽園ボウル&ゴルフのマネージャーを務めていた油田理事も賛同。

バスの運行経費を支える「サポーター制度」を導入し、
ついに1997年4月、「サンクスネイチャーバス」運行をスタートさせたのでした。

天ぷら油でバスが走る!?にみんなが驚いた

ボンネットバスで運行開始
1997年4月~2002年6月に運行していた初代サンクスネイチャーバス(写真提供:サンクスネイチャーバスを走らす会)

「天ぷら油」で走るバスということで大変注目されたといいます。

排気ガスから天ぷらのにおいがするのでは?と、みんな嗅ぎに来たとか・・・。
当時は廃食用燃料100%で走らせていたため、
天ぷらやお好み焼きの匂いがしたといいます。

実際にこの燃料を使用してバスを走らせるまでには
並々ならぬ苦労がありました。

「サンクスネイチャーバス」はあくまでも任意団体。
バス運行会社としての免許がないので、路線バスを走らせることはできません。

そこで「一般貸切バス」として会が借り上げ、
施設を利用する乗客を送迎するということで許可をとります。

「サポーター施設、お店の送迎バス」とうたっているのはそのためです。
もちろん、どなたでも無料で利用できるので
「どんどん活用してほしい」と島田理事はおっしゃっていました。

また、もっとも苦労したのがリサイクル燃料の許可。

「前例がない

しかし、メンバーの熱意が伝わり、
運輸省が農水省(食用油なので)に掛け合ってくれたり、
碑文谷警察署や目黒消防署の理解と協力により、
試験的な運行が許可されます。

赤とブルー2台のボンネットバスを借り、運行がスタート。
「ノーズが長いので狭い道を走らせるのにとても苦労した」とか。

イメージは「手をあげると気軽に停まってくれるバス」。

お店「サンクスネイチャー」と初代ボンネットバス
(写真提供:サンクスネイチャーバスを走らす会)

現在はマイクロバス(三菱ローザ)に代わりましたが、
駅前など交通の妨げになるエリアをのぞき、手をあげれば停まって乗せてくれるし、
希望の場所で降ろしてもくれます。

サンクスネイチャーバス2
駒沢ルート・深沢ハウス前

乗車定員数は25名。
ベビーカーを乗せるスペースをつくるため座席をカスタマイズしているそうです。

現在使用している燃料は軽油に対し、廃食用油を5%混合したもの。
車両への負荷と税制上の問題から、染谷商店さんから提案受け、
混合燃料を利用しています。

佐藤商会 自由が丘ステーション

現在は㈱佐藤商会さんのCaRes自由が丘ステーションに
このオリジナル燃料を保管し、給油をしています。

さまざまな法律の壁や規制の問題があり、
混合燃料での運行を余儀なくされていますが、
将来的にはまた「廃食用油100%でバス走らせたい」と思っているそうです。

地域をつなぐ”コミュニティバス”の先駆者でもある

最近では採算のとれない路線バスの廃線などにより、
高齢者の外出が難しくなっています。

東京23区でもコミュニティバスの運行を始め、
駅から離れた住宅地や坂の多い丘陵地などで暮らす
お年寄りや小さな赤ちゃん連れのお母さんの外出をサポートしています。

「サンクスネイチャーバス」が走る自由が丘・八雲・深沢エリアは、
意外と坂が多いといいます。

駅周辺はもちろん、少し離れたところにもスーパーマーケットやテニスコート、
スポーツクラブ、病院などさまざまな生活を支えてくれるお店や施設が点在。

こういったスポットを便利につなぐ「足」となるバスがあったらいい。

これはまさに現代の”コミュニティバス”の発想。
大手新聞社から「天ぷら油バスあがったり(環境に優し、客足は厳しい)」と
揶揄されたこともありましたが、
20年近くも運行を続け、たくさんのメディアにも取り上げ続けられ、
つねに注目される存在に。

お店や企業によるメジャーサポーター、キーエリアサポーター、
エリアサポーター以外にも個人サポーターとして協力し続ける方も少なくないといいます。

八雲ルートのバス停
自由が丘駅正面口にあるバス停

「サンクスネイチャーバス」がこれほどまでに愛され、
応援され続けている秘訣はなんでしょうか?

島田理事はバスを利用している方に、
「サンクスネイチャーバスを応援し続けてくれている理由を聞いてみたい」といいます。

自由が丘という街にはお金持ちが多く、
経済的にも気持ち的にも余裕がある人が多く住んでいから、
という地域的な「特性」もあるかもしれません。

でも、そのヒントのひとつとしては
「自由自治」の精神にあるように感じました。

通常、こういった施設を送迎するバスの運行には
地元の商店街や特定の企業などが協力することでその意向が強く反映されます。

しかし、「サンクスネイチャーバス」の運行を支えているのは、
ボランティアで参加する会のメンバーたち。
あくまでも中立的な立場で地元への貢献、地球への貢献を掲げて活動しています。

自由が丘商店街振興組合などから後援は受けていますが、
スタート当初から活動の目的として掲げてきた3つの合言葉に基づき、
この19年間、ブレずに身の丈に合った活動を地道に積み重ねてきました。

そんな何ものにも縛られない自由な活動と遊び心のある取り組みが
たくさんの方の賛同と共感を生んできたのではないでしょうか?

別の理事の方は「意外と運行時間が正確」といいます。
習い事などに出かけるとき、これは便利だそう。

また「駅前で買い物して家に帰るときにとても助かると感じている人も多いのでは?」
とのこと。

「夕方から飲みにでかけるのも便利(笑)」。

この19年間で人身事故はゼロ。
自転車とのちょっとした接触事故はあったそうですが、
駅前の混雑ぶりを考えると、
オンタイムの運行を続けてこの実績はなかなかな気がします。

もう一つは「少しでも環境のためにできることはないか?」と
考えている人たちの存在。

実際、当時は会のメンバーの中にはエコロジーという発想が全然なかった人も(笑)。

しかし、この活動を通じて環境と向き合い、
地球のために自分ができることをしようという気持ちになったといいます。

家庭からは年間約20万トンの廃食用油が出ているといいます。
しかし、各家庭で1回に出る量は少なく、回収ルートに乗せるのが大変困難。

「サンクスネイチャーバス」のキーエリアサポーターである立源寺と
目黒区エコプラザ(エコライフ推進協会)にもっていけば染谷商会さんが回収。
新たな燃料、VDF(R)(バイオ・ティーゼル・フューエル)として生まれ変わり、
また町を循環するバスを走らせます。

地球規模で考えれば、ほんの些細なことかもしれません。
でも、湖に小さな小石を投げ込んだときのことを思い出してみてください。

小さなさざ波がやがて大きな波紋となって湖に広がります。

「こんなちっぽけなこと」とは思わずに続けていけば、
いずれは積み重なり、大きな貢献へと繋がっていくことでしょう。

以前、屋久島でウミガメの保護活動を行っている方に取材したとき
「たくさんの寄付金を1回、提供していただくより、
少ない金額でも継続して寄付し続けてくださる方が助かる」とおっしゃっていました。

この先も活動を続けていける!
そんな希望を与えてくれるのは、
わずかな金額でも「応援し続けてくれる存在」がいること。

「サンクスネイチャーバス」が環境について考えるきっかけになれたらいい。

島田理事をはじめ、ボランティアで続けている会のメンバーが願うのは、
街のシンボルとして、廃食用油のリサイクルをすすめる広告塔として、
存在し続け、愛され続けていくこと。

これからも「サンクスネイチャーバス」の活動を見守っていきたいと思いました。

「サンクスネイチャーバスを走らす会」では、
メディアからの取材以外にも学校や自治会、役所、
商工会議所などの視察や問い合わせも
受けていらっしゃいます。

自分たちの地域でも取り入れたい。
学校で環境教育の一環として話を聞きたいなどがありましたら、
事務局まで問い合わせてみてはいかがでしょうか?

さて、次回「後編」では「サンクスネイチャーバス」誕生の
きっかけにもなったリサイクル燃料に取り組む染谷商会グループ、
㈱ユーズ代表の染谷ゆみさんのインタビューをご紹介しましょう!

――(続く)――

≪特定非営利活動法人サンクスネイチャーバスを走らす会≫
東京都目黒区自由が丘3-171
事務局受付: 火曜・金曜の10時45分~17時30分
Tel/Fax: 03-5729-2511
Email: tnbus@star.odn.ne.jp
http://thanksnaturebus.org

■広告協賛:東急セキュリティ、自由が丘クリニック
■協力:目黒区、みつばコミュニティ、染谷商店、第一石油販売、
佐藤商会 自由が丘ステーション、エコライフめぐろ推進協会
■後援:自由が丘商店街振興組合

※サポーターになりたい!という方は会のホームページを参照してください。

この記事を書いた人
バス観光マガジン編集部 編集ライター

バス観光マガジンの中のヒト。貸切バスについての基礎知識やバス旅行のヒント、バスファンのための情報など、バスに関する楽しいコンテンツを日々お届けします。

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