ボンネットバスで運行開始

天ぷら油で走るバスの先駆者!サンクスネイチャーバス(後編)

バイオディーゼル燃料、VDF(R)(ベジタブル・ディーゼル・フューエル)で走る
自由が丘のコミュニティバス「サンクスネイチャーバス」後編は、
このエコ燃料にスポット当ててご紹介していきましょう!
天ぷら油で走るバスの先駆者!サンクスネイチャーバス前編はこちらから)

1993年、世界に先駆けて廃食用油を使用し、
VDF(R)(ベジタブル・ディーゼル・フューエル)を開発したのは染谷商店さん。

今回は染谷商店のグループ会社「株式会社ユーズ」の代表取締役、
染谷ゆみさんにインタビュー。

㈱ユーズ代表・染谷ゆみさん

「サンクスネイチャーバスを走らす会」との出会いと、
タッグを組んでバスを走らせるまでのエピソードについてもうかがってきました。

コミュニティバスを走らせるからには「何か面白いことがしたい」

染谷商店さんがVDF(R)(ベジタブル・ディーゼル・フューエル)を商品化したのが1993年。
「サンクスネイチャーバスを走らす会」の斉藤理事が、
問い合わせをしてきたのがその2年後の1995年。

「自由が丘の駅と住宅地、店舗をつなぐコミュニティバスを走らせたいと考えている」

「せっかく走らせるのだから、
“Thanks Nature”のテーマ(自然に感謝)に合った何か面白いことがしたい!
染谷商店の廃食用油をリサイクル燃料にする、
というプロジェクトは面白いし、
地域貢献だけではなく、地球環境保護にも貢献できる。
ぜひ、取り入れたい」。

そんなきっかけから、染谷商店さんと「サンクスネイチャーバスを走らす会」との
合同プロジェクトがスタートしたそうです。

「サンクスネイチャーバス」の重要な目的は「パーク&バスライド」。

自由が丘駅周辺の渋滞緩和と省エネにつなげたい。
お子さんやお年寄りが安心して街をまわれる乗り物にしたい。

そして、リサイクル燃料を使ったバスを走らせることで、
地域住民や訪れた人たちがエコを体感し、考えるきっかけづくりになれば・・・。

「エコタウン自由が丘」のイメージリーダー的なシンボルになりたい。

そんな会のメンバーの思いが染谷さんとの縁を紡いだといいます。

染谷さんはいままでいろんな企業や団体から問い合わせを受け、
導入してくれたところもたくさんあったが、
こんなに長く続けてくれている団体は非常に少ないといいます。

自由が丘 立源寺
油回収ステーションにもなっている自由が丘「立源寺」

「サンクスネイチャーバス」が19年以上も愛され、
活動を続けられているのは参画している会のメンバーが

「自由が丘をこんな街にしたい!」

という明確なイメージをもっているからでは?とおっしゃいます。

自分たちが暮らす街へのプライドが共有できているからこそ、
ブレずに、「法律の壁やお役所仕事」にもめげずに、
チャレンジし続けてこれたのではないでしょうかと。

ちなみにバイオディーゼル燃料は英語で表記すると「Bio Disel Fuel(BDF)」ですが、染谷商店さんのつくる燃料は「VDF(R)(Vesitable Disel Fuel)」。

植物の油から作るオイル、という意味を込めたネーミングでした。

バイオディーゼル燃料の歩み

もともとディーゼルエンジンはピーナッツ油で走らせていました。
開発は19世紀末頃で、圧縮した際の熱で燃料に点火し、エンジンを動かすという仕組みです。
しかし農作物の収穫は天候に左右されるため安定供給が難しいという問題が。

その後、油田が発見され、軽油や重油などの化石燃料へとシフトしていきます。

一方、資源のない日本では戦時中から戦後にかけて、
液体燃料(ガソリン、軽油など)の供給が途絶え、
手に入りにくい状況になっていました。
このため、代替燃料として木炭や薪などを使った「代用燃料車(代燃車)」が使われるように。

神奈川中央交通株式会社・代燃車
(バスフェスタ2015で展示された代燃車)
木炭バス
バス後方にある「木炭ガス発生装置」

昭和13年生まれだという島田理事は、
「松の切り株を乾溜することでできる松根油(しょうこんゆ)
というのも開発されたこともあったよ」
とおっしゃっていました。

太平洋戦争中の日本では航空ガソリンの原料としての利用を考えていたそうですが、
精製に非常に労力が掛かり、収油率も悪いため実用化には至らなかったといいます。

その後、安定してガソリンなどが供給されるようになり、
こういった代替燃料は姿を消しますが、
1990年代以降、環境への負荷を軽減するため、
バイオディーゼル燃料への転換が注目され始めます。

染谷商店さんがてんぷら油などの廃食油を使ったリサイクル燃料、
VDF(R)(ベジタブル・ディーゼル・フューエル)が開発されたのも
まさにそのころで、世界に先駆けての非常に革新的なものでした。

2008年、北京オリンピックの年、アメリカはCO2排出量を下げる!
ということで、バイオ燃料への転換をはじめます。
原料となるのはトウモロコシ、大豆などです。

これらの食料からバイオエタノールを生成し、燃料にするというわけです。

しかし、トウモロコシや大豆を燃料として大量に消費することから、
食料不足に陥り、価格の高騰で食料難に苦しむ人が増えるのでは、
という問題が指摘されるようになりました。

前回、いすゞ自動車さんに取材した「ミドリムシ(ユーグレナ)で走るバス」は、
まさにこの食料問題に抵触しないバイオ燃料として開発されたものでした。
「ミドリムシで走るバス!?未来の乗り物のカタチ」参照)

染谷商店さんが提供するVDF(R)(ベジタブル・ディーゼル・フューエル)も、
各家庭や飲食店から廃棄された「ゴミ」を
あらたな資源として生まれ変わらせたものであり、
大気汚染の原因となる硫黄酸化物を出さず、黒煙も軽油の半分以下。
地球にも人にもやさしいクリーンなエネルギー。
車の改造などは一切不要で、すべてのディーゼル車にそのまま使用できます。

食料問題とバッティングすることなく、
CO2排出量を減らすことができる代替燃料です。

福島の桧原湖を周遊するレトロバス「森のくまさん号」は、100%バイオディーゼル燃料(天ぷら油)で運行していることで有名ですね!

現在、VDF(R)(ベジタブル・ディーゼル・フューエル)を100%使用し、
エコツアーを企画している旅行会社さんもあります。「リボーン」さん。

天ぷら油で走るバスの貸切もできるそうなので、
興味のある幹事さんは問い合わせしてみては?

東京などの大都市にはたくさんの資源が捨てられている!

㈱ユーズ代表の染谷さんが展開するプロジェクト「TOKYO油田」
なんて、心に響くネーミングなんでしょう!

このプロジェクトは東京エリアで使われた
家庭や飲食店、企業などが出す廃食用油を回収し、
再資源化を進めるリサイクルプロジェクト。

私たちが国内で消費している食用油は1年間で約200万トン。
そのうち、ゴミとして捨てられているのは約40万トンといわれています。

半分は飼料や石けん、塗料などに再生されていますが、
残りは生活排水として河川を汚したり、ゴミとして消却処分されています。

川や海に浮かぶ「オイルボール」はたびたび問題になっており、
東京都下水道局でも「下水道に油を流さない」よう、呼びかけています。
「東京都下水道局からのお願い」参照

島田理事は「下水道に油を流す行為は、水道管の”動脈硬化”を引き起こす!」
と染谷さんがおっしゃっていたのをとてもわかりやすいと思ったそうです。

日本で毎年でる約40万トンの廃食用油をすべて
VDF(R)(ベジタブル・ディーゼル・フューエル)に精製することができれば、
約40万台ものバスやトラック(ディーゼル車)を走らせることができるとか。

そして、こんなエピソードもあります。

5年前の3月11日の東日本大震災の時、
たくさんのガソリンスタンドから燃料が姿を消しました。
東日本の製油所がストップ。沿岸部の油槽所も津波の被害を受け、
運びたくても、運べないという状況になっていたのです。

首都圏でも深刻な燃料不足に困る中、
染谷商店のトラックは、被災地へスイスイと物資を運ぶことができました。
VDF(R)(ベジタブル・ディーゼル・フューエル)を使用していたからです。

このとき、油の回収ステーションを設置してくれている
地元のお花屋さん「アトリエ イル フィオレット」さんから、
被災地にお花を届けてほしいという依頼を受けました。

アトリエ イル フィオレット
使用済み油を持っていくとお花を一輪プレゼントしてくれます
イル フィオレットの油回収場所
アトリエ イル フィオレットさんに設置されているオイルステーション

「慰められる、癒される」
「亡くなった方に手向けることができる」

このお花を受け取った被災地の方々はとても喜んでくれたそうです。

「人はパンのみで生きるにあらず」

とはこのことだと染谷さんがおっしゃっていました。

こういった非常時に備える意味でも、
リサイクル燃料の灯りはともし続けていかねばなりません。
普及に苦労する染谷さんを、逆に激励してくれる被災地の方々。

「すごくエネルギーをもらいました」。

現在、全国で500か所の油回収ステーションがあり、
前述の「アトリエ イル フォレット」さんのようなお花屋さんの他、
イトーヨーカドーやファミリーマート、びっくりドンキーなども
家庭からでる油の回収ステーションとして参画しているそうです。

株式会社ユーズのオイルステーション
染谷さんが展開する「油田カフェ」前にある油回収ステーション
回収ステーションポスター
オイル回収ステーションはこのポスターが目印

回収ステーションを設置するのには費用がかかるのに、
個人宅でやっている方も。

今年も代々木公園で開催される「アースデイ東京2016」でも
発電用の油を回収する予定なので、
興味のある方はぜひ足を運んでみては?

いつかまた、天ぷら油燃料100%でバスを走らせたい!

「サンクスネイチャーバスを走らす会」の島田理事の夢は
もう一度、VDF(R)(ベジタブル・ディーゼル・フューエル)100%で
バスを走らせること。

サンクスネイチャーバスの燃料
エコを考えるきっかけになれば・・・

現在は、軽油に5%の割合でVDF(R)(ベジタブル・ディーゼル・フューエル)を
ブレンドした燃料を使っています。

消費者利益保護を目的として
「揮発油等の品質の確保等に関する法律(品確法)」ができたのが昭和52年5月。
この法律により、エンジントラブルを引き起こさないよう、
ブレンドの割合は5%以下にするように定められました。

平成21年2月25日以降には、バイオ燃料とガソリン、軽油を混合し、
自動車燃料にする場合、
事業者登録と品質確認が義務付けられています。

染谷商店さんでVDF(R)(ベジタブル・ディーゼル・フューエル)を開発するやいなや、
他社でも真似して製造するようになりました。
このときに品質の良くないものが多数出回ったため、
車のエンジントラブルなどが頻発するようになったといいます。

現在ではバイオ燃料をつくり、販売するためには年に1回申請し、
オイルの組成分析(品質チェック)を行う必要があります。
この費用は約100万円かかるので、
誰でも簡単に作れるものではなくなりました。

時代とともに車はどんどん進化しています。
コンピュータ制御により、さまざまな高性能を備える一方で、
ささいなことで車が動かなくなることも。

最近では動かなくなった車をなおすのは整備士ではなく、
コンピュータのプロの方だという話もあります。

島田理事はこの「品確法」のため、
100%のバイオディーゼル燃料が使えなくなったのがとても残念だとおっしゃっていました。

染谷さんたちは現在、バスを走らせる燃料だけではなく、
発電機を動かし、電気をつくるプロジェクトにも取り組んでいます。

美しいイルミネーションで話題になった目黒川のライトアップも
染谷さんの開発したバイオディーゼル100%を使用した自家発電で行っています。

目黒川の桜色LEDライトアップ
桜色のLEDで装飾した「冬の桜」イベント(写真提供:株式会社ユーズ)

「自分たちのところでも油回収ステーションを設置してみたい」
「天ぷら油で走るコミュニティバス」を導入したい」
「震災に備えてリサイクル燃料での自家発電を検討したい」などなど・・・。

少しでも興味をもたれたかたは、ぜひ、㈱ユーズまでお問合せを!

始めたころは駅と八雲を結ぶ1つのルートで運行を始めた
「サンクスネイチャーバス」。
現在では、駒沢とを結ぶ2つのルートで運行しています。
また、産業能率大学がサポーターに参加し、
午前中は学生の送迎を行うシャトルバスとしての役割を担うまでに成長してきました。

始めること、辞めることはたやすいですが、
「続けることは」とても大変なこと。

サンクスネイチャーバスと「TOKYO油田」のチャレンジにこれからもぜひ、注目してください。

■取材協力
株式会社ユーズ
東京都墨田区八広3-39-5
Tel:03-3613-1615
「TOKYO油田2017」プロジェクト
http://www.tokyoyuden.jp/
「油田カフェ」
https://www.facebook.com/yudenmall

【油田カフェへの行き方】
●JR「錦糸町駅」利用
都営バス「青戸車庫行き」or「新四つ木橋行き」で「八広4丁目」下車
徒歩約2分
●東武線「小村井駅」下車徒歩約15分、京成線「八広駅」下車徒歩約13分
●半蔵門線、京成押上線、浅草線、東武伊勢崎線「押上<スカイツリー前>駅」利用

押上駅すみりんバスの乗り場
押上駅、スカイツリーの目の前!
ソラマチと東京スカイツリー
東京スカイツリー観光のついでに遊びにいってみては?

区内循環バス「すみだ百景 すみまるくん すみりんちゃん」北東部ルートに乗り、
「社会福祉会館(すみだ健康ハウス入口)」下車徒歩約2分。

社会福祉会館バス停
北東部ルート(八広・立花)12番バス停

帰りは「三輪里稲荷神社入口」から乗車すると、約10分で押上まで帰れますよ!

押上と八広を結ぶルート
グリーンのラッピングが目印
三輪里稲荷神社入口バス停
帰りは16番バス停から乗車すると便利

■リボーン エコツーリズム・ネットワーク
てんぷら油100%で走るバスを使ったエコツアーを開催中。
東京都新宿区新宿2-2-1 ビューシティ新宿御苑1203
Tel:03-5363-9216
http://reborn-japan.com/

■特定非営利活動法人サンクスネイチャーバスを走らす会
東京都目黒区自由が丘3-171
事務局受付: 火曜・金曜の10時45分~17時30分
Tel/Fax: 03-5729-2511
Email: tnbus@star.odn.ne.jp
http://thanksnaturebus.org

この記事を書いた人
バス観光マガジン編集部 編集ライター

バス観光マガジンの中のヒト。貸切バスについての基礎知識やバス旅行のヒント、バスファンのための情報など、バスに関する楽しいコンテンツを日々お届けします。

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