ベビーカー優先エリアまである!!英国ベビーカー事情
エディンバラのなこです。
国土交通省による「ベビーカー利用に関するキャンペーン」が行われたり、ベビーカーマークが全国で統一されたりと、バリアフリー化の普及にともなって、バスでベビーカーと一緒にお出かけする人が増えている日本ですが、ここ英国でもバスでのベビーカー利用者は増加。
そのため、さまざまなサービスがバス会社から提供されています。
でも利用する人が増えれば、問題も増えるのが世の常。ベビーカーマナーを巡るトラブルが、マスコミでもよく取り上げられる、今日このごろ。
なんと「ベビーカーVS車椅子!バスの優先エリアではどちらに優先権があるのか」という問題が、法廷で論議されていたほどなんです。
そこで今回は、英国バスのベビーカー利用事情をお伝えします。
バリアフリー化のルールがてんこ盛り
そもそも、英国でバスでのベビーカー利用者が増えた理由のひとつに、1980年ごろから始まったインフラ面での改善があります。
その改善の根底にあるのが、さまざまな法案や条例。車両適合基準や運営者のライセンスについてなどを定めたPublic Passenger Vehicles Act 1981を皮切りに、Transport Act 1985、The Public Service Vehicles (Operators’ License) Regulations 1995と、1980年代に公共交通機関とその運営者に対する一般的な決まりごとが、立て続けに定められ始めます。
そして決定打は、2000年に出されたPublic Service Vehicles Accessibility Regulations 2000。この条例により、2000年12月31日以降に導入された、22名以上乗ることのできる7.5トン以上のシングルデッキバスは2016年1月までに、ダブルデッカーバスは2017年1月までに障害者対応にすることが義務付けられました。
バス会社は新しいバスすべてに、最低1台分の車椅子専用エリア、優先席、手すりなどの設置に加え、乗降口の高さ規定を反映したlow floor bus(日本のノンステップバス)を取り入れることになったわけです。
そして今年は2017年!どれだけバスのバリアフリー化が進んだのかというと、Department for Transportationの2016年3月の調査によれば、イングランド地方において94%のバスがバリアフリー対応バス基準を満たし、またlow floor busのみ取り入れたバスの割合はそれを上回る結果に!
日本でもノンステップバスの普及は広がっていますが、東京近郊を見てみると、神奈川県は54.3%、千葉県は54.7%、そして埼玉県は60.9%と、東京都の90.9%以外はまだまだな印象。
それに比べると、英国全体ではありませんが、イングランド地方(かなりの面積です)のノンステップバス普及率にはビックリ。しかもロンドン交通局によれば、ロンドンを走る9600台すべてのバスが2006年よりlow floor busだったそうです。
英国ではベビーカー優先エリアがある!?
乗り降りが容易なノンステップバスの普及によって、かなりバリアフリー化の進んだ英国。おかげで、車椅子利用者のみならず、身体の不自由な人や年配の方、もちろんベビーカーと一緒にバスを使う人が増えたわけです。
でも、ノンステップバスだけではありません。
英国では、さらなるベビーカー利用者に優しい工夫が、導入されはじめています。それはベビーカー優先エリア!
地方都市を走る小さなバス会社ではまだ導入していないところもあるようですが、大手バス会社が2000年以降に購入したバスの大多数に、ベビーカー優先エリアが設置されているのです。
これは、本当に便利!
私の住むエディンバラの主力バス会社であるロジアンバスは、すでに50%のバスにこの優先エリアを設置しているそうです。私もロジアンバスを頻繁に利用しますが、街中の路線では優先エリアがないバスを探すのが難しいほどです。
日本では補助ベルトでベビーカーを固定する必要があったり、また進行方向に向けて背面にベビーカーを置くなどの規則がありますが、このエリアはそのような約束事はなく、もちろんベビーカーを折りたたむ必要もありません。
そしてなにより、ベビーカー利用者が、ほかの乗客を気にせず、バス乗車を満喫できる、とても助かるスペースなのです。
バス会社の多くが、早急にすべてのバスにベビーカーエリアを設置する予定としていますが、実現には相当の時間がかかる模様。でも、バスにベビーカー優先エリアがあれば、ママたちにとってはありがたいですよね。
それでもまだまだ不満の声が!
ノンステップバスの普及やベビーカー優先エリアの導入など、ベビーカーのバス乗車には優しい環境が整っている英国に感じられますが、まだまだまだ不満の声があがっているんです。
そのひとつが、バス会社によってベビーカー利用に関する基準がバラバラなこと。
たとえば、ロンドンでは優先エリアが他者に占有されていても、ほかにスペースがある場合はベビーカーを折りたたまずに乗車可能ですが、ロンドンを離れると、優先エリア以外はかならずベビーカーを折りたたむ、というバス会社も出てくるのです。ベビーカーユーザーにとっては、場所によって基準が曖昧だと困ります。
また、バス乗車にはかならず折りたたみ可能なベビーカーを使用しなければダメ、という方針の会社が多いことにも不満の声が上がっています。
「ベビーカーに乗せて移動する必要性の高い、乳幼児用のベビーカーには、折りたたみ式が少ない」と主張しているのです。
2000年に出されたEquality Act 2000によって、英国では妊婦と産後6ヶ月以内のお母さんの保護が定められていますから、赤ちゃんをベビーカーでバスに乗せたい場合、ベビーカーの仕様がバス会社の基準に合わないために乗車を拒否されるのは、法律に反することにもなります。
たしかに、交通渋滞解消対策として「park and ride」なるものがある英国。途中までは自家用車で行くけれど、街の外に車は駐車。そこから中心部へはバスに乗り換えて行く!なんてことは、よくある話。
こんなとき、使っているベビーカーが折りたたみ式でなかったら、ベビーカーを諦めて赤ちゃんを抱っこしながらバス乗車をするしかないわけです。これでは、困りますよね…。
しかし、あるバス会社が2012年に111台のベビーカーを調査したところ、0歳児から使用できる折りたたみ可能なベビーカーは全体の52%だったそう。
バス会社は「選択肢が多くあるので、バス乗車ができるベビーカーを購入して下さい」と、利用者に促しています。
また、乗車料金の再支払免除サービスを行っているところも。これは、乗車料金を支払ってベビーカーと一緒にバスに乗り込んだけれど、ベビーカーを置く場所がないので「折りたたまなければならない!」、でも「折りたたみたくない!」という場合、違うバスに乗り換えることが許され、その際、乗車料金は再度支払う必要がないというサービス。
ロンドンなどでは、すでに取り入れられています。実際には、バスの外から優先エリアなどが空いているかを確認してからバスに乗るベビーカーユーザーが多いようですが、混雑時にバスを利用するとき、乗り換え可能とわかっていれば、少し心強い気がしますね。
弱者にはとても優しい国なのです
とまあ、ベビーカーのバス利用には、さまざまな議論がまだまだ起こるイギリスですが、基本的には英国は弱者に対して優しい国。
先日判決が出たばかりの、「ベビーカーVS車椅子!バスの優先エリアではどちらに優先権があるのか」という問題もそうですが、これは車椅子利用者がベビーカー利用者に異議申し立てをしているわけではなく、バス会社の対応に焦点が当てられたもの。ベビーカーをたたまずに使っている人を、叩いているわけではないのです。
それでもやはり、混雑時のベビーカー利用は敬遠されることが多いかとは思いますが、基本的にはベビーカーを利用してバスに乗る人に対して嫌な顔を見せる、または嫌がらせをする人は、イギリスではほとんどいないように思います。
オリンピック開催が近づく東京。
ベビーカー利用者にとってだけでなく、年代や性別、国籍を超えて、すべての人が快適にバス乗車を楽しめる環境が整えばいいですね。
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